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特商法の行政処分規定とは

かつて銀行系カード会社に分割払いやリボルビングが認められていなかった時代に、法律の定義の範囲外である二回払いを商品として開発したことがあります。ショッピングの代金をローンに振り替えるサービスというものもありました。これらは法律の抜け穴ですが、自主規制が強く働く時代であれば、おそらくできなかったものと思います。しかし、これらの今でいう潜脱商品は、消費者ニーズを満たしたものでもありました。今回の法改正は消費者被害防止にはいい法律かもしれませんが、これからどんなニーズが出てくるかわからない、気まぐれに変わる消費者ニーズには間違いなく対応しないと思います。

このような規制の形になったのは、クレジットでいろいろなトラブルが発生したことによるのはいうまでもありません。消費者団体からの意見が強く反映されたものともいえます。こんな経験をしたことがあります。消費者庁の議論が盛んだったころに、とある会合に参加する機会を得たので出席してみました。民主党の担当議員が来ていて消費者庁の骨格について説明があったのですが、ほとんどの出席者は消費者団体といわれている組織に所属する人たちでした。消費者保護政策には、国民生活センターのPIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)の情報が重要な役割を果たします。

これは、地方自治体の消費者窓口に寄せられる相談や苦情を、国民生活センターが一元化しているデータベースです。国民生活センターは消費者庁に二〇一三年に統合されましたが、そういった構想についても説明されていました。いささか場違いだったかもしれませんが、「PIO-NETの情報はトラブルの拡大に重要なものであるから、なるべく早く開示すべきというのはもちろん、当該会社には個別に開示すべきではないか」と質問してみました。民主党案では、そこまでは考えていないようでした。が、出席していた消費者団体の人たちからは「あり得ない」といったつぶやきが聞こえてきました。

いろいろな取引や商品について、PIO-NETでの情報が積み重なると公表されたり、行政指導があったりするのですが、当該の会社が事前にわかればより早い対応が可能です。必ずしも当該の会社がすべての情報を確認できているとは限らないからです。それがなぜ「あり得ない」なのかは理解しかねましたが、これは消費者行政の仕事にも反映されています。特商法の行政処分規定は、過去にはまったく名目だけだったのですが、急激に増えています。

この要因には、権限移譲された都道府県が機能しだしたということも挙げられます。とはいっても、このように数字としてまとめられると、それが仕事の成果になりがちです。まさに数字の独り歩きなのですが、これを成果とするとしたら、行政の本筋の業務からは大きくずれているといわざるを得ません。こういった状態は、保護されるべき消費者にとっても歓迎すべからざることです。結果的に高いコストを払わされることになるからです。

新しい規制の形

改正割賦販売法も貸金業法と同じように、自主規制団体の設置について規定しています。自主規制団体を法律で規定することの意義は、本来行政が行うべき業務を自主規制団体が行うことによって、行政の肥大化を防ぐことにあります。ところが、自主規制を法律が定めた団体が行うことによって、過剰な規制が行われ、法律の肥大化が促進される懸念があります。一九六一年の割賦販売法制定を機に設立された割賦制度協議会は、その後社団法人割賦協会となり、さらに名称変更で一九八五年に日本クレジット産業協会となりました。

割賦制度協議会は、時代背景があるとはいうものの、産業育成を目的としていました。監督官庁である経産省が認めないと、協会名は変更できません。協会名を「日本割賦協会」から「日本クレジット産業協会」に変更できたということは、支払い停止の抗弁が導入された翌年の協会名変更ですが、監督官庁もまだ産業育成の使命は忘れていなかったものと思います。ところが「日本クレジット産業協会」は「日本クレジット協会」と協会名を変えて、認定割賦協会となりました。

消費者被害防止法に衣替えした割賦販売法に産業育成の視点はないわけですから、その法律が認定する団体ということで、「産業」は消えてしまったものと思います。認定割賦販売協会の会員は、クレジットカードや個品割賦を行う会員に限りますが、加盟店が行った「利用者等の保護に欠ける行為に関する情報」を得たときは、認定協会に報告することを義務づけられています。この業務は本来行政が行っていたもので、それを認定団体に下ろすということですから、認定団体への報告は行政のスリム化という意味ではおおいに意義がありそうに思えます。

ただし、現実はそうはなりません。例えば、金融庁は旧大蔵省から分離されて監督指導を専門とする役所になりましたが、一九九人年の発足時に四〇〇人だった定員は、現在は三倍以上になっています。経産省で割賦販売法を管轄するのは取引信用課という一つの課でしたが、現在は分掌の振り替え等があったにせよ、消費経済監督課と消費経済政策課の二つに分かれています。人数も増えました。自主規制は、名前のとおり認定団体の会員が自主的に決めたものです。その基になるのは法律です。法律の解釈は、認定団体の仕事ではなく、所管の経産省の仕事です。こういう構図なので、自主規制とはいっても法律を緩めるような解釈は絶対にできません。逆に、厳しく解釈する傾向になりがちです。

個品割賦の問題点

販売業者はそれにつけこんで、一度販売に成功すると、次から次へと商品や役務を勧めて契約していくのです。こういった契約にも個品割賦はよく利用されていました。消費者トラブルになつて発覚したときには、とうてい返済不能であろう非常識な金額になっていることも珍しくありませんでした。本来、消費者の信用を担保に契約するのがクレジットですから、返済不能な金額の与信はあり得ないはずです。正常に与信審査が機能していれば、加盟店を調査する必要すらないかもしれません。

ところが個品割賦の場合は、加盟店与信が堂々とまかり通る取引となっていたものですから、次々販売を行うような取引先を加盟店にしていたわけでした。従来の商慣行からすると相当厳しい内容といえます。次々販売は、法律用語では「過量販売」といいます。個品割賦はこの改正でクーリングオフができるようになりましたが、過量販売の場合は通常のクーリングオフの期間(八日)を超えて一年以内であれば申し込みを撤回できるようになりました。この規定に該当すると、すでに支払った分の返還が行われます。

つまり「既払い金」の返還です。法律改正以前に個品割賦がトラブル化すると、すでに支払った分の返還が争点になっていました。それを条文化したものといえます。ただし適用になるのはあくまでも法律不遡及の原則にしたがって、改正法施行後の契約に限られます。当時、貸金契約で利息制限法を超えた部分の過払い利息が、司法関係者の大きなビジネスになっていましたが、それに似ている部分もあるので「過払い」の次は「既払い」といった期待も一部にあったようです。繰り返しになりますが、これらの加盟店管理関連の規定は特商法関連の販売の際の個品割賦限定であって、クレジットカードには影響しません。

ただし改正法を検討した審議会では、店頭販売やクレジットカードでも同様の規制を行うべきとの意見がありましたから、今後も同じ状態が続く保証はありません。クレジットはこのような法環境の下に置かれ、世間の目は極めてシビアになつています。そういった情況があるので、クレジットカードの業界でも特商法関連取引であるエステティックについては、個品割賦とほぼ同様の対応をするようになっています。つまり、健全な経営をしているかどうかは問題ではなく、エステティックサロンとは契約しないというものです。

個品割賦の加盟店調査

個品割賦は法改正のきっかけになった取引ですから、当然のように厳しい規制がかけられました。法律を見ていただければわかるのですが、関連の条文の分量はクレジットカードに比べるとはるかに多くなっています。規制の対象になったのは、加盟店管理です。これまでも再三にわたり通達で行政指導されてきましたが、それらが条文化され、さらに厳しい内容が求められています。店頭販売の個品割賦はそれほど問題にされているわけではなく、特商法に関係する取引の場合に厳しい諷査を課されています。調査の内容は特商法の4類型によってそれぞれ異なりますが、いずれもきちんとした実態を持ってビジネスをしているかどうかがポイントになります。

特商法のもう一つの取引類型である通信販売は適用になりません。そして個品割賦を行うクレジット会社は、調査に関する記録を作成し保存しなければならないとされました。また、この調査にあたっては、加盟店も調査に協力するよう努力規定が設けられました。この規定は二〇〇八年の改正で初めて設けられたものです。ただし、この調査はあくまでも与信側が主体となって行うものであって、加盟店はそれに協力すればいいというものです。調査の結果、特商法および消費者契約法に違反することが判明した場合は契約することが禁止されています。

企業が銀行に融資を申し込むと、当然のことながら決算書の提出を求められたり、事業計画書の提出を求められたりします。銀行によって基準は異なるものと思いますが、融資を受ける側は求められれば、当然それらを準備して提出します。個品割賦の場合も同じだと思います。わざわざ条文化したというのは、これまではそういった慣行がなかったことの裏返しのように思えます。努力規定とはいっても、ないよりはましです。法改正のきっかけになった住宅リフォームの販売は、いわゆる次々販売といわれているものです。

一度買ってくれた客のところへ、同一あるいは名目上は別の業者が次々に訪れて販売するというものです。これ以外の商品でもいろいろ起きました。エステティックを一〇年分、カツラを一〇枚、英会話教室を一〇年分、絵画を部屋いっぱいになるほど、など挙げればきりがありません。なぜこのようなことが起きるのかというと、絶対的に悪いのは契約者側ですが、こういった契約をしてしまう人は、住宅リフォームで被害に遭った認知症の姉妹のように、判断力に欠けていることが多いものです。

個人情報保護法の影響

個人情報保護法の影響を強く受けているのはわかるのですが、流出するのは番号だけで、それをもって個人を特定することはカード会社以外不可能です。二〇〇五年にアメリカのマスターカードのサードパーティ(業務代行会社)から大量のクレジットカード情報が洗出したことがあります。クレジットカードは世界中で利用されていますから、日本で発行されているカードも影響を受けました。事態を重く見た経産省は、当時の大臣の選挙向けパフォーマンスというきらいがなかったとはいえないと思いますが、通達を出して状況の報告を求めたり以後の対応策の取りまとめなどを業界に指示しました。

おそらくこういったことがあったことも、カードの番号管理が法律に盛り込まれた一因だと思います。しかしカード情報が流出して仮に悪用されたとしても、それはカードホルダー(クレジットカードの保有者)のところに毎月明細が届いているのですから、確認すればカードホルダーが被害に遭うことはありません。現金で買い物をしてお釣りが少なければ、どんな人でも間違いなく文句をいうはずです。クレジットカードの場合は余計な請求があれば、文句をいえば済むのです。

「だから消費者被害は発生しないではないか」と、マスターカードの事件があったころ、経産省の担当官にいったことがあるのですが、返ってきた答えは「明細を見ないで払ったら被害者だろう」でした。かなり唖然としたのですが、残念ながら意見はまったく通らずに、明細を見ないで払った人も被害者として扱わなければならないのです。行きすぎた消費者保護には当然コストがかかります。そのコストを誰が負担するかというと、回りまわって消費者です。

消費者政策全般が同じようなセンスで運営されているように思います。ちなみにカード情報が洗出した場合の対応は、わが国ではカード番号を変更して再発行します。アメリカでも同じように再発行しますが、それは政府からの規制があってのことではありません。そのままにしておくとカード会社のロスにつながるので、カード会社が自発的に行っているものです。カード会社の行動は結果的には同じことになりますが、規制という名目で余計なコストの負担がカード会社はもちろんのこと、消費者にも及んでいるということです。